4.坂東収容所所長 松江豊寿(まつえとよひさ)の気概


 収容所の松江所長は、「俘虜は犯罪者ではない。彼らも祖国のために立派に戦ったのだから武士の情けを持って遇したい」との信念を持っていました。松江氏の父親は、戊辰戦争で西郷隆盛率いる新政府軍と戦い、敗れた会津藩士であり、賊軍の汚名を受けた経験が、悲哀に満ちた敗者に対する敬意を父は息子(豊寿)に伝授していたのです。坂東俘虜収容所の極めて人道的な対応が帰国したドイツ兵によりドイツ本国に伝えられ、語り継がれて、100年目のメモリアルである昨年2018年に、ベートーヴェン生誕の地であるボン市からの日本人合唱団招待に繋がったのだろうと思われます。

 会津といえば、今回のボン第九の団長を務めた渡部智也氏。彼のご両親は教員で、祖父も重責を担う教育者であったことを考えると、曾祖父も藩校で教育を受けた会津出身者だったと思われ、松江と渡部両者は身近なところにいたのではないでしょうか(未確認)。100年の時を経て、ボン市長と、松江とおなじ会津出身の渡部智也、が熱い握手をしたのは歴史的なことだったと思います。両者とも二度と戦争の加害者にも被害者にもならない誓いでもあったのです。

つづきは .年末NHK番組『第9ナインストーリーズ』との縁