戦争レクイエム
2025年11月14日
『レクイエム』とは本来、生ける者から死者のために尊厳を持って神に許しを乞う言葉である。しかし五連符の通奏低音『戦争レクイエム』で出てくる冒頭の言葉は、家畜同様に泥まみれ糞まみれの塹壕の中で誰からも忘れられ死んでいく兵士自身が発するすすり泣く祈りである。
本来『怒りの日』はいつか来るであろうはずの"最後の審判"を想像しての恐れである。しかしブリテンの『怒りの日』は人間によって20世紀に実現してしまった<その日>に迫ろうとしている。もはやラテン語の古典的内容は死滅し、5拍子で出る『Agnus Dei』はイエスキリストへ疑いすらうたう。
転調の連続『Libera me』も裏切られた神への最後の恨みにしか聞こえてない。そして最後のコラールでわずかに残っている希望を神に託す。「もう俺は眠りたい」と。
いまこの作品を歌う意味を改めて問う必要はないほどに、世界に戦争が渦巻き戦争への準備に翻弄されているといってもいい。この作品を右近大次郎、渡部智也、郡司博、ピアノの大村萌樹がスクラムを組んで皆さんと共に歌いあげようとしている。そして兵士を歌うのが西山詩苑と原田光。そしてソプラノ澤江衣里が人類の抜け出せない悲しみを歌う。コンサートまで最後の3ヶ月が始まった!歌うことがどれだけの意味を持つのかはわからないが・・・神に帰依できない今、人間の死が完全に数量化し無名なものにならない保証はどこにあるのか!明日からの合同練習、足取りは軽くない。
ベンジャミン・ブリテン作曲《戦争レクイエム》
公演:2026年2月23日(月・祝)マチネ 新宿文化センター大ホール
指揮:右近大次郎
管弦楽:アンサンブル≪ヴェネラ≫&「新しい音楽生活」