コンサートのお誘い 2021年5月23日 新宿文化センター大ホール

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コロナ禍の今なぜ「森の歌」なのか~「ゼロからの出発」の共通点

渡部智也

「戦いが終わった時」と歌うバスのソロから始まるショスタコーヴィチ作曲の『森の歌』は、戦争による荒廃、日照り干ばつによる不作などから、荒れ果ててしまった愛する祖国ロシアを、ロシア人の心のよりどころである森を育てることで取り戻そうという内容です。

ロシア人は森から様々な恵みを受けます。秋になれば郊外の別荘「ダーチャ(与えてくれるものの意)」に行き、森に入り、茸や山菜をとり、厳しい冬に備えます。じっと耐えながら、暖かい春の森、爽やかな夏の森を待ち焦がれます。これがロシアの日常であり、当たり前の風景でした。これが戦争によって町が破壊され、森が焼かれ、それによる経済、そして精神的な荒廃が起こります。そこで「森の歌」では、子どもたちの合唱が植林を歌い、そのアイデアと行動が祖国の復活への道しるべとして、美しく、そして高らかに歌い上げられます。私は「森の歌」の音楽の本質は「荒廃からの再生」だと思います。

「森の歌」で歌われる内容は20世紀中ごろのロシアのものでしたが、私はその本質に歌われている内容が、現在のコロナ禍での我々の合唱活動に重ねて見えてきます。コロナにより学校、会社、地域活動が停止し、特に三密を避けるためと言われ合唱ができなくなりました。ほんの数か月前まで当たり前だった活動は全く「ゼロ」になってしまったのです。これまで積み上げてきたものも「ゼロ」になりました。いまだに活動を再開できない合唱団体もある状況です。

しかし、私たちはこの状況を乗り越えるべく、アイデアを出し合い、できることから始めました。それは事務局、合唱参加者の皆さんの協力がなければできません。感染拡大防止に最大に注意しながら、少ない人数から練習を再開しました。9月にはコンサートを再開し、不安を少しずつ取り除くことで、これまで練習に足を運べなかった方たちが戻ってこれる場所ができてきました。

まだまだ安心はできませんが、これまでの当たり前が無くなってしまった今、合唱再開への活動はまさに「ゼロからの出発」でした。私は「森の歌」の音楽の本質である「荒廃からの再生」を、現在のコロナ禍の「ゼロからの出発」として、次に進む力にしなければならないと思います。当時の社会背景が色濃く残る歌詞もありますが、その根底にある内容を大事にして、20世紀を代表する芸術作品として、今取り組む意味がある作品だと思います。