マゲローネのロマンス

2023年03月26日

昨夜の原田光バリトン カンマーザール連続コンサートVol.7

ブラームス ティークのマゲローネによるロマンスより

〈朗読と歌〉

赤間夏海さんの朗読(日本語)は物語を理解する為の最小限の情報(登場人物の背景や展開・進行)を提示してくれる。バリトン原田光さんとピアノ安野美咲さんが演奏する曲の部分は主人公たちの心情を音楽(ピアノ)と歌(ドイツ語、あらゆる声の表現とことば)で。

私たちは朗読を聞いて物語の展開を理解した後、曲に移りピアノと歌だけ(字幕あり)で主人公の様子や心情を頭の中で想像します。音楽と言葉だけだから想像は無限。ピアノを聞くと映像がリアルに目に浮かび、歌では登場人物に感情移入してドキドキ、ハラハラしたり、苦しんだり、恋焦がれるあの独特な感情を主人公と共有したりする。舞台にはオペラ・芝居のような身体表現はなく、道具も何もないから視覚からの情報はありません。あるのは歌手と朗読者らの一切の無駄をそぎ落とした美しい立ち居振る舞い、唯一視覚情報は字幕の訳詞。つまり私たちが物語にのめり込み没頭していく要素は、朗読者の話す言葉と声、歌手が歌う声、そしてピアノだけ。たったそれだけで私たちの頭の中にスケールの大きな世界や情景を空想、想像させ、主人公と一緒に心が揺れ、苦しみ、喜び、悲しみ、絶望する。そういうものをなんと呼ぶのだろう?演劇とも違うオペラとも違う。テレビや映画、ライブやアイドルの公演、RPG、他のどんなエンタテインメントとも違うもっと素晴らしい世界、心が豊かに満たされる感覚。年齢、経験、記憶が違っていても誰でも自由に無限に広がる想像の世界へ誘ってくれる、こんな素晴らしい世界をもっと味わいたいと思いました。

カンマーザール実験劇場、原田光さんの演奏会は続くそうです、これからも目が離せません。